言葉少ない深い対話。五十嵐一生、辛島文雄 I wish I knew

五十嵐一生さん(Tp)と辛島文雄さん(Pf)がデュオのアルバムを出した。

五十嵐一生さんも辛島文雄さんもジャズのミュージシャンである。二人とも日本のジャズシーンではトップクラスのミュージシャンだし、私も個人的に五十嵐一生さんのトランペットは大好きで今までに出したCDも持っている。

五十嵐一生さんの音楽は、マイルスデイヴィスと並べて語られることが多い。確かにライブによっては60年代のマイルスクインテットを思わせるサウンドだったり、もっと後のエレクトリックなサウンドの時もある。そこで五十嵐一生の刺さるようなトランペットサウンドは確かにマイルスを思わせる。実際はもっと温かいく太い音で吹くこともあるので、それがマイルスとは違ったサウンドを作り出しているのだけど。

辛島文雄さん、は日本だけにとどまらず、世界のジャズシーンで活躍している方だ。世界中の名だたるプレーヤーとステージを共にしてきた人。15年前ぐらいに吉祥寺あたりの小さい店で聴いたが、やっぱりすでに重鎮であった。

 

その二人のデュオアルバムである。

 

とりあえず、CDプレーヤーに入れて1曲目を聴き始めると辛島文雄の短いイントロが入って五十嵐一生のトランペットが入ってくる。

トランペットの音は太く力強いが、どこか温かい。それに対し辛島文雄のピアノは音を絞り込んで、小さなスケッチを重ね合わせるような出だし。

テーマを歌いきるまで、二人の音数はものすごく少ない。少ないがために、五十嵐一生のトランペットのちょっと強張ったような表情と、辛島文雄の対話のテーマを探るようなフレーズが行き交う。対話にしてはずいぶん不器用なスタートだ。

曲の中盤で、辛島文雄がソロになりI thought about youを少し格式張って弾く。それに五十嵐一生のトランペットがかぶさってくるときのピアノの瑞々しさが印象的だ。

 

このアルバムは、辛島文雄のピアノの瑞々しさと、硬質な冷たさがアルバムの色を形作っている。

五十嵐一生は、温かく太い音でトランペットを鳴らし、ピアノにはなしかける。

その対比が、弾き古されたスタンダードをよりスリリングな音楽にしている。

 

二人とも音数は絞っている。スイングホーンプレーヤーとデュオをやるオスカーピーターソンのように、音符で時間を埋めつくさない。

五十嵐一生と辛島文雄の対話には程よい空間がある。そして、対話の中で超絶技巧を見せつけたりはせず、音葉少なく対話する。その短い対話が、それぞれの弾き古されたスタンダードに、五十嵐/辛島流の解釈が生まれる。

 

そして、このCDの優れているところの一つは、五十嵐/辛島のスタンダードの解釈が難解だったり複雑だったりしない点である。音楽として、鑑賞する音楽として聴きごたえがあり、それぞれに纏まっていて、スリルもある。

ガジェットがない、超絶技巧もない、ただただ音楽として楽しめ、満足出来る内容に仕上がっている。

お互いの言葉はそれほど多くはないにもかかわらず、深いのである。

そして、その対話は静かで、心地よい。

 

若手のバカテクミュージシャンの新譜にも飽きた、

往年の古い音源ばかりでは退屈だ、

管楽器のレコードは騒がしくていかん、

 

そう思っている方にこそ聴いてもらいたいCDです。

CDで音質全く問題ありません。