21世紀に住む私たちと、吉田秀和とトランペット

高校の頃クラシック音楽が好きでよく聴いていた。特にマーラーが好きでバルビローリが演奏する交響曲第9番なんかを何度も聴いた。今はもう殆どクラシック音楽を聴かない。あんまり時間も無いし、他にやりたいことが沢山あるので、クラシックは聴かない。

 

吉田秀和氏が亡くなられたそうだ。ご存知の方も多いだろう、クラシック音楽の評論、特にレコードやCDについての評論の第一人者である。10何年も前、私がまだ高校生だった頃、氏の著作は私のバイブルだった。インテリの格好良さのお手本のような存在だった。当時国語の教科書で見た小林秀雄氏の写真と、文庫の裏表紙の吉田秀和の写真は、東大卒のインテリが持つある種独特の神々しさをうちはなっていた。

 

大学生になった私は、モダンジャズ研究会に入った。オーケストラに入りたいとも思ったが、満足に楽譜も読めない私にはオーケストラの敷居は高かった。それが故、ジャズという吉田先生のことばを借りれば喧噪の音楽に身を委ねた。

吉田秀和の著作はもう10年以上読んでいないので、どんな本だったかは殆ど覚えていないが、クラシック音楽という得体の知れないものを、ダイナミックにかつ立体的に言葉におとし込み、高校生だった読者のあたしにダイレクトにガンガン突き刺さる文章だったような気がする。

 

音楽が好きだった高校時代、クラシック音楽の魅力というのがいまいちよくわからなく、もっともっと知りたいと思っていた私にとって、氏の著作は音楽への道しるべだった。音楽というのは耳ざわりの良い聴きやすい音楽を聴いているだけでは、なかなかよい音楽に巡り会えない。いや、よい音楽には巡り会えるんだろうけれど、それだけではどうしても出会うことの出来ない素晴らしい音楽もこの世の中には存在する。

 

それは私にとって、マーラーの音楽であり、マイルスデイヴィスであり、チェットベイカーであり、チェットアトキンスであった。それらの音楽に出会った時にはそれらは私にとって得体の知れない音楽であった。丁度グレープフルーツジュースのように、はじめの口当たりが苦く、その味をどうやって受け止めていいのかわからないけれど、何度か口にしていくうちにその味の虜になる。そんな音楽がこの世の中には存在する。そのことを、好奇心は旺盛だが飽きっぽい高校生の私に根気よく教えてくれた先生が吉田秀和氏であった。決して優しい先生ではなかった。厳しい方であった、物の善し悪しをはっきり仰る方だった。

 

そんなことを思い返しながら、今夜はティルブレンナーのトランペットを聴いていた。確かにこの音楽はジャズなのであるが、それは吉田秀和が喧噪の音楽と形容したものとはあきらかに異なっていた。ティル・ブレンナーのベルベットのようで、シルクのストールのような柔らかく儚いトランペットの音色と、その周りを行き来するチャックローブのギターの音色はどこまでも静かで、美しかった。

 

ティルブレンナーのトランペットの演奏がすんだので、今度はチェットベーカーのレコードを聴きながらこのブログを書いている。チェットベーカーのこのアルバム"Chet"もジャズではあるが喧噪の音楽ではない。静かな音楽である。心を静まらせる美しい音楽である。

 

チェットのトランペットの音色は少し曇っていて、大福のように柔らかい。ジャズという音楽のもう一つの頂点を探しながら宙をさまようかのような音楽だ。

 

私も学生の頃、チェットベーカーのようなトランペットを吹きたいと思っていた。まるで鼻歌を歌うかのような旋律を、あの柔らかいトーンで弾けたらどんなに素晴らしいことだろうと思った。しかしながら、ろくに練習をしなかったため、ついにそのようにトランペットを吹けるようにはならなかった。夢破れ、気がついたら忙しい大人になっていた。それでも、チェットベーカーの音色を耳にすると、今でもその憧れの気持ちがふと温かくなる。ああ、こんな風にトランペットを吹けるようになりたい。

 

柔らかいトランペットについて話したついでに、今夜はこのブログに付き合ってくれたあなたに、この歌を紹介します。毎日の生活にもし、疲れたり、人付合いで心がすり減ったり、寂しさを感じたりした時に、Tokuのメランコリックで悲しいこのバラードを聴くと、ちょっと心が安らぎます。ホントはオリジナルのBilly Paulの方が良いんだけれど、この一曲を聴くためにCD一枚買うのも癪なので、そっちの方は後日お話しします。

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コメント: 2
  • #1

    Nicki Rondeau (火曜日, 31 1月 2017 21:30)


    Wow, this post is fastidious, my sister is analyzing these kinds of things, therefore I am going to convey her.

  • #2

    Erminia Correia (水曜日, 01 2月 2017 00:45)


    Hmm it looks like your blog ate my first comment (it was extremely long) so I guess I'll just sum it up what I had written and say, I'm thoroughly enjoying your blog. I as well am an aspiring blog writer but I'm still new to everything. Do you have any points for rookie blog writers? I'd certainly appreciate it.