おぼろげな切ない回想と現実の、大阪の夜。

大阪で過ごした数日間は、私に学生時代を思い起こさせてくれて、あの頃の自由の心地よさと、無力さを感じさせてくれた。

 

金曜日の昼過ぎバスで京都駅に着いた私は、そのままバスを乗り継いで四条河原町まで出た。四条河原町は祇園祭の最中らしく多くの観光客や浴衣を着た若者でごった返していた。そんな中で、ストリートスナップを撮りながら京都の雑踏を歩いた。

 

私はこの、観光客が入り交じった京都四条通の雑踏が好きだ。ここへ来ると京都の街にいるんだってことを実感させられる。河原町から烏丸方面まで歩いて、途中寺町に入って服屋を見たりするのも好きだ。京都が古都であるということとほぼ関係ないような気分にさせてくれ、何となく落ち着く。

それで、四条で5本位撮影したら、撮影に飽きてしまった。折よく時計は4時頃になっていたので、このまま阪急で梅田まででて、梅田のカメラ屋をひやかして、ねえさんの仕事が終わるのを待とうと思った。

 

大阪は梅田にしか行ったことが無かった。正確にはなんばのあたりも一度足を運んだことがあるけれど、場所とかよくわかっていなかった。けれども、梅田のカメラ屋には精通しているので、梅田にさえいればいくらでも時間がつぶせる。大阪駅前第1ビル界隈には5件以上中古カメラ屋があるのでカメラを見ながらねえさんからの連絡を待った。

 

17:30頃ねえさんから連絡があって6時前に梅田で落ち合い駅の中の喫茶店でコーヒーをのんだ。それで近況を話し合い、お互いまあそこそこ元気だということは確認できた。

 

ねえさんはそのあと地下鉄で新世界や釜ヶ崎、飛田新地なんかを案内してくれた。今までも時折思ったけれど、やっぱりねえさんとあたしは育った環境や青春時代を過ごした場所が違うんだな、って思った。そして、ねえさんの見せてくれた大阪がとても好きになった。東京で住めなくなったら大阪に移住しよう。

 

夕飯にもつ鍋を食べて、ビールを飲んだ。あたしはねえさんがお酒を飲んでる姿がとても好きだ。こうして二人でお酒を傾けていると、学生の頃を思い出す。色々楽しいこともあったけれど、毎日が不安で寂しい時期だった。彼女(今の嫁さん)は熊本の実家に帰ってしまっていたし、ねえさんも遠距離恋愛の真っただ中だった。それに自分たちはこの後どうなって行くのか全然わからなかった。

 

少しだけ顔がほてって、目がとろんとしたねえさんの顔を見ていて、ねえさんとこうして一緒に過ごせる幸せと、今嫁さんと結婚できて幸せな日々をおくれていることへの幸せを感じた。そのことを、どうねえさんに伝えようかと思ったけれど、どんな言葉を使えばいいのかをわからずに結局そのまま店を出た。

 

それが、今回の旅行でねえさんと二人きりで過ごした時間だった。こうして回想しながら時間を過ごしていると、今を生きていないように聞こえるかもしれないけれど、回想はあくまでも回想で、今は今の現実がある。ねえさんには今の生活があるし、私は旅先の身だけれど、東京に帰ったら妻もいるし仕事を探さなくてはいけない。そして回想と同じように、今の現実の中にも色々楽しいことや、辛く悲しいこともあり、それを共有している人たちが周りにはいる。そして私は今日そこに戻ってきた。