枯れた音色のトランペット。トニー・フラッセラ

ジャズを聴く人でも、トランペットを吹かない人はご存じないかもしれないけれど、Tony Fruscella(トニー・フラッセラ)というトランぺッターがいる。トランペットというとパーンと輝かしい音の楽器だと思われがちですが、トニー・フラッセラの音色を聴くと、「ああ、こういうフカフカした音のトランぺッターも世の中にはいるのか」と思われることでしょう。

 

ジャズのトランぺッターの多くは、クラシックの奏者とは異なる奏法でトランペットを吹いており、タンギングもパリっとしていなかったり、サブトーンのような音色を多用する人もいます。トニー・フラッセラもその中の一人ですが、彼の音色は、彼のトランペットのスタイルを象徴しています。

多くのハードバッパーとは異なり、比較的音数が少なく、16分音符で吹きまくるようなことはなく、8分音符をプカプカたどたどしく、けれどもしっかりと歌う彼のスタイルは、ジャズトランペットのひとつの完成型でしょう。

 

マイルス・デイビスのマラソンセッションの時のプレイスタイルも音数少なく、静かですが、それともちょっと違います。私の好きなチェット・ベーカーのスタイルも、トニー・フラッセラと共通するところはありますが、チェット・ベーカーは案外吹きまくります。音はふにゃふにゃしてますが、結構雄弁にバリバリ吹きます。だから、トニー・フラッセラはトランぺッターの中でもかなり地味で、あんまりCD屋にCDが売ってません。

 

私も、彼のアルバムを一枚しか持っていないのですが、この一枚をCDプレーヤーに突っ込んでは、勉強しております。ジャズのトランぺッターってバリバリ吹く方がカッコいいと思われがちですが、そういうわけでもないのです。当たり前のことだけど音楽はスポーツとかと違うから、音数が多ければ良いというわけでもない。音数が少なくてもしっかりと、けれどもどこかはかない存在感を放っている彼の音色を聴くと、ジャズっていう音楽はつくづく奥が深いと思わせられる。

 

ケニー・ドーハムのあのアルバム「静かなケニー」の演奏も地味な方だけれど、トニー・フラッセラのトランペットは、もっと片言で、音数が多いフレーズも派手じゃなく、耳に優しい。私たちは毎日の生活に疲れちゃっているから、こういう優しい音楽が必要だ。

 

探せば色々CDが出てるのかもしれないけれど、とりあえず今夜はこの一枚、紹介しておきます。ちょっとアレンジが凝っているのが鼻につきますが、それ以外は完璧なアルバムです。

 

 

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コメント: 1
  • #1

    ED (土曜日, 09 5月 2015 01:15)

    「どうしてきみはいつも、僕との関係を否定しようとするんだ? 複雑にしているのはきみだ。僕はきみが欲しい。そしてきみは僕が欲しい。そうだろう?」